「時短管理職誕生! 時短勤務者の評価と意識の差に迫る」
「育児や介護などの事情で時短勤務をしながら、昇進することは可能か?」
少し前までなら「ムリでしょ」と多くの人が即答したこの質問に、自らが事例となって「イエス!」と答えるパナソニックエイジフリーショップス株式会社(以下、エイジフリーショップス)の小松多恵子さんが、第70回研究会の発表者です。
約2年前、2011年8月の研究会で、ダイバーシティ推進室創設メンバーとしての成果を発表してくださった小松さん。今回は、 IT企画推進部兼ダイバーシティ推進室課長という立場に昇進されての再登場なりました。
研究会はいつもの通り、2部構成で行われました。
*第1部* 14:00〜15:30
・植田寿乃ミニ講義
・事例発表(質疑応答含む)
*第2部* 15:45〜17:00
・グループディスカッション
**主催者によるミニ講義**
今回のテーマにあわせて行った事前アンケートには38社のメンバー企業さまからご回答をいただきました。
その結果によると、今や職場に育児の時短勤務者がいる企業は実に90%。わずか10年前まではかなり希な存在で、多くの女性が出産とともに会社を去っていた状況を考えると、時代が大きく変わったことが実感できます。
しかしながら、時短勤務者の実態を見ていると、あるいは回答者の方自身の経験からも、時短勤務をすることが管理職昇進の障がいになっていることが未だに否めない結果に(障害になっている=50%、課題を抱えている=89%)。
一方、「時短ではなく、そもそも女性に昇進意欲がないのが問題」との意見も回答には散見されましたが、「昇進動機の性差に多くの人がもっと着目するようになると、状況は変わってくる」と植田。「偉くなること、部下を鍛えて服従させること」が原動力だったオールドキャリア時代の昇進動機はどちらかというと男性的なものですが、ニューキャリア時代の今、求められる「人を育てること」にフォーカスした昇進動機を持つことは、むしろ母性本能を持つ女性が得意とすること。
時短勤務=マイナス評価からのスタートとするのではなく、育児経験者=後進育成、リーダーシップ経験の持ち主と捉え、周囲が理解と期待を寄せることが時短管理職の誕生につながるという話には大きくうなずくことができました。
**事例発表**
2009年11月に発足以来、エイジフリーショップスさまのダイバーシティプロジェクトは、記念日休暇取得の推進、ランクアップノート(担当業務共有日誌のようなもの)記入の徹底、介護チェックシートなどの取り組みを通じて、極端に低かった有給消化率の上昇、育休取得男性の増加といった成果を上げてきました。
事例発表の前半では、前回、小松さんがお話しくださった内容を振り返り、さらに、メンター制度の導入など、第3期(今年度)ダイバーシティプロジェクトの取り組みを15分程度でご紹介いただきました。
その後が本日のメイン、小松さん自身が2人のお子さんを育てながら、時短管理職となるまでの道のりのお話でした。ご自身が社内でも最初の事例となるため、ここから先は取り組みの紹介やデータ発表といったものではなく、まさに、リアルな自分史を語っていただく時間となりました。
ご自身のライフラインチャートを用いながら、「育児をしながらずっと働き続ける」と心を定めるまでの過程や、3年前に受験した管理職試験の失敗の要因などを深い内省を含めながらわかりやすく語っていただき、ワーキングマザーの多いメンバーには共感する人もとても多かった様子。
とくに、「1回目の育休復帰の時は、休暇前と同じように働こうと頑張りすぎて苦しくなってしまった、『お先に失礼します』が言い出せなくなった」のに対し、「2度目の時は、以前と同等に働くのは限界と腹をくくることができ、優先順位付け、情報公開を積極的に心がけたことで、かえって周囲の理解も得られて働きやすくなった」という話には納得。ロールモデルがいなかった分、一段一段、ご自身の納得感を頼りに管理職への階段を上がってきたストーリーは、まさにニューキャリア時代の理想の女性管理職像であり、後に続く女性たちがお手本にしたい部分がたくさんありました。
「あなたが課長にならないと、他のメンバーが上に上がれない。『別に昇進しなくてもいいや』という考えはやめた方がいい」と上司に諭され、「ならば、あえてフルタイムに戻る前に昇進を果たそうと考えた」という決断のくだりを伺い、この“腹オチ感”が、2年前に比べ、佇まいも話し方も格段に落ち着いた貫禄のある女性に小松さんを変えた要因なのだろうなと感じることができました。
小松さん、ありがとうございました。素敵な後進をたくさん育ててくださいね。
*グループディスカッション*
主宰者の植田と事例発表をしていただいた小松さんを囲む2つのグループで、グループディスカッションを行いました。グループディスカッションでは、ミニ講義および事例発表の内容に各社の事例を織り交ぜることで、「時短」をとりまくより深い議論が展開されました。
主宰者の植田を囲むグループでは、たとえば、「介護の問題」、「時短勤務者の評価の問題」、そして「産休・育休を通しての女性の成長」といったテーマを中心に議論が進みました。
「介護の問題」では、時短というと産休・育休との関連で語られることが多いなか、50代、60代の男性が抱える「介護の問題」を踏まえ、時短と介護といった捉えられかたが今後はますます重要になっていくのではないかということでした。特に、男性の場合、介護をしていてもその事実を会社に報告しない、または上司・同僚等に言わないという「隠れ介護」が多いとの意見がありました。参加企業においては、介護で時短を使う人はまだまだ少ない、または皆無といった会社が多く、「介護の問題」を、時短等を使いながらどう解決していくか、みなさま共通して大きな課題として捉えられていました。
また、以前の研究会でも話題に上りましたが、時短勤務者の評価に関連する問題もみなさま大変興味があるようでした。参加企業においても、時短を考慮して評価を行っている会社もあれば、時短をとると評価が下がるという会社もあり、やはり会社によってかなりの差があることがわかりました。ただ、興味深かったのは、時短勤務者の評価に関する問題は、上司と部下のコミュニケーションの問題と深くかかわりがあるのではといった意見です。たとえば、ある企業さまでは、時短勤務者から評価に対する不満が出て、人事部として上司と時短勤務取得者本人のどちらに問題があるか調べてみたところ、そもそもの問題としてコミュニケーション不足が一因として考えられたとのことでした。実際、今回事例発表をしていただいたパナソニック エイジフリーショップスさまでは、「ランクアップノート」といった上司と部下のコミュニケーションツールがあり、上司と部下の関係性が深いと言います。このことは、小松さんのような時短管理職が生まれる大きな土壌となっているのではないかと思いました。
さらに、「産休・育休を通しての女性の成長」については、よく言われることではありますが、時間が制限されるため、働き方が変わり、以前より業務の効率が上がる傾向があることです。また、より大きな視野でものをみられるようになることや、出産・育児やそれらと仕事とのバランス等について色々と悩むことで、人として成長をするといったことなどがあげられました。現在、多くの企業等で20代、30代の若い男性の間で管理職になりたがらない人が増えてきたと言われます。もし、この現象が今までの男性中心の管理職像に違和感を抱いたことにより生まれているとするならば、時短管理職など、人生のバランスをうまくとりながら、充実した仕事人生を目指す新しいタイプの管理職が彼らに与える影響は大きいのではないかと思いました。
グループディスカッションでは、参加者のみなさんが現在抱えている悩みや問題を出し合うことで、それぞれの問題の解決を目指していくといった側面があります。また、話し合いのなかで、よいアイディアがでてくることが多々あり、このことは、当研究会の魅力の1つとなっています。
後半では、社員に「ダイバーシティ」を浸透させることの難しさ、自分事として捉えてもらえるのはどんな時かというテーマで意見が交わされました。パナソニック エイジフリーショップスさまでも、活動を始めた頃は社員の大半の方が「ダイバーシティって何をやっているの?」という反応を示していたようです。ダイバーシティは、自分が結婚や出産などのライフイベントを迎えて初めて身近に感じる人が少なくありません。また最近では、親の介護がきっかけで意識するようになる人が増えているようです。多様な価値観、働き方、様々な人生の背景をお互いに理解し認め合いながら働くこと、これは人事制度を整えるだけでは実現できません。メンター的なサポートが大切という意見に、みな共感していました。
次回の研究会は、「女性取締役誕生の意義と社内への影響」と題して9月4日(水)に開催いたします。ガラスの天井を打ち破った女性役員、株式会社QUICK伊藤様に、ご自身の体験談も含めて事例発表していただきます。会場でしか聞けない本音も出てくると思いますので、ぜひご参加ください。たくさんの皆さまのお越しをお待ちしております。
文責:ライター 阿部志保 株式会社きんざい 船山綾 株式会社日経BPマーケティング神田絵梨